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19、第17話:恋人《後編》 ...
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恋人になれなくてもいい。
そう思い始めたのは秋の季節の頃だった。
傍目にみても未来と舞の仲はよくなっていくのがわかる。
そして、私に対して未来はあまりかまう事がなくなり、毎朝起こしにきてくれることも少なくなってしまう。
放課後すらも彼らの受験勉強で話かける暇がない。
気がつけば11月。
文化祭の近づく頃につれて学校の雰囲気は慌しくなってきた。
この雰囲気は嫌いじゃない。
「未来は私と同じ班だったんだね」
「そのようだな」
クラスではクレープ屋として参加することになり、私達は準備をするグループで一緒に行動することになった。
こういう接点でも今の私は嬉しい。
他に私達の班には隆樹君がいる。
彼は力があるので大まかなセットなどの雑用をしてくれる。
「ほら、神保。そっちの荷物はもってやるから、軽いのにしておけ」
「サンキュ。これ重いから助かったよ」
「おう。ついでにあの木の枠組みを運ぶのを未来に伝えてくれ」
隆樹君は看板用に使う木の板を軽々と持ち上げて運んでいく。
私は紙の入った袋を持ちながら、作業をしている未来の方へと歩いていく。
「未来、隆樹君が枠組みを持ってきて欲しいって」
私がそう伝えるけど、彼は気づいてないのか別の方向を向いている。
「未来?」
未来の視線の先にいたのは舞の姿。
今さらだけど、そう言う場面を見ると心が痛い。
「ん、ああ。悪い……何?」
「これ、あっちに運んで欲しいって」
「わかった」
彼はすぐに枠組みを持って隆樹君の方に走っていった。
結局同じ班になれても満足できる程話はできない。
私はキッと唇を噛みながら、自分の作業へと戻る事にした。
定番のお手軽簡単なクレープ屋だからと言っても、準備は他の催しとあまり変わらない。
屋台用のセットは学園から提供されるがオリジナリティを加えるためにいろいろと工夫したり、クレープを焼くための鉄板や材料の手配なども私達で行う。
中庭に全てを設置し終え、全ての作業が終了したのは文化祭前日。
「ようやく、ここまでこれたか。他のクラスに比べたら早い方だな」
隆樹君が中心となって準備はスムーズにできた。
彼は意外にもリーダーシップをとるのがうまい。
私の事を気にしてくれているのか、未来と一緒にできる作業にまわしてくれたりしたので私としても感謝していた。
「後は当日の奴らに任せるだけだな。皆、お疲れさん。今日はもう解散しよう」
「ああ、わかったよ」
皆が帰り支度している中で、私はふと気になる所を見つけたので未来に告げる。
「ねぇ、未来。クレープ屋の立て看板ってどこにあるの?」
「え?看板なら……あれ?」
私達が作成したはずの看板があるべき場所にはない。
「どうしたんだ?何か問題でもあったのか?」
「隆樹、看板はどうした?」
「看板は……ないな。おや、確認はしたはずなんだが……」
隆樹君が数人に聞き込んでいる中で、私と未来は看板を探す。
ただ板にクレープ屋と書いただけではなく、ちゃんと立体的に仕上げた私達の自信作だったんだけど、その看板がどこにもない。
「……どこ行っちゃったんだろう?」
「探してもないって事は誰かが持っていったのか?」
私達は首をかしげながら、情報収集している隆樹君を待つ。
数分後、隆樹君は複雑な表情をしながらやってきた。
「すまん。どうやら誰かがゴミと間違えて捨ててしまったらしい。今、確認してきたが昼に出した分はもう収集された後だった」
「えぇ、せっかく作ったのに!」
頑張って作ったものをゴミと間違えるなんてヒドイ!
私は捨てた相手に対して怒りを感じていると、
「しょうがない、今から新しいのを作るか?」
「って、未来は怒らないの?」
冷静な彼に私はキョトンとした様子で聞くと、
「今さらだろ。相手も悪気があったわけじゃないさ。それよりも今できることをしよう」
「納得いかないけど、未来がそういうなら……わかった」
未来の言うとおり、文化祭は明日でもう時間がない。
「すまんな。俺は今から準備委員会に呼ばれてるんだ。材料はまだ教室にあるはずだから、2人に頼んでもいいか?」
「ああ。こっちは任せておけって」
私としては不本意な展開だけど、未来とまた一緒に時間を過ごせるのは嬉しい。
教室に戻ると、私達は残っていた資材で再び同じような看板を作る。
1度どんな風なのか作っているので、作業自体はそう難しくない。
「ねぇ、未来」
「何だ?」
「未来は文化祭、誰と回るつもり?」
「え……」
黙々と作業していた彼の腕が止まる。
私としてはどうせ舞と回るんだろうな程度に思っていた。
別に誘いたかったわけじゃない。
そりゃ、もちろん一緒に回るのが嫌なわけじゃなくて。
ただ、私にはそんな望みなどないと思っていた。
会話したのはただの確認的なもの。
「……別に誰とも決めてないな」
「じゃ、私とはどう?一緒に行かない?」
「それもいいかもしれない。そうするか」
「う、うん……」
私はそんな事を言ってもらえるなんて思ってなくて驚く。
期待してなかった分、すごく嬉しくて。
でも、どうして舞と行かないのかとは聞けないのがもどかしい。
彼女は明日の店番だから、休憩時間以外は遊べないという事かも。
舞の代わり、それでもいい。
「こっちの感じはこれでいいかな?」
「ああ」
その後の私はホントに喜びに満ちていた。
作業を終わらせて、看板を完成させた後もそのテンションはさがらない。
明日が楽しみだなぁ。
そう思いつつ、私は彼への期待を膨らませる。
……だけど、期待は失望を二乗するなんて言葉があるほど裏表があるもんだって事を、私はすっかりと忘れていた。
翌日の私に届いた未来からのメールはこんな冷たい文章だった。
『ごめん、今日は一緒に回れない。この埋め合わせは必ずするから』
やっぱり私には希望なんてなかった。
文化祭当日。
私はいつものメンバーになりつつある悠里と千夏の3人で文化祭を見ていた。
「……いつもより暗い顔してるわね。ねぇ、悠里。留美はどうしたの?」
「ミライにまたドタキャンされたって」
「うわっ、あの人もやる事けっこうひどいねぇ。これで何回目だっけ?」
千夏はそういいながらパンフレットを眺めていた。
今日はここに行こうとか、そういう楽しい声をしてる2人が純粋に羨ましい。
本当はこんな気分で楽しめるわけがないので断りたかったけど、朝会ってから心配してくれた悠里が誘ってくれたのを断るのも悪いと思ってやめた。
「ほら、そんな暗い顔しない。今日くらいは嫌なこと忘れちゃいなさい」
「千夏はさ、元から誘う相手いないからそう言えるんだよ。私なんかOKされたと思ったらダメだもん。期待してただけにダメージがきついの」
初めから期待なんてしていなかったら、こうもダメージはなかったと思う。
一緒に回れないとは考えてたことだったから。
それを余計な期待をさせるから……胸が痛い。
だったら、最初から期待させないでよ、未来のバカ……。
「人が気にしてることを言わないの。私だって、誘う人くらいは……。と、とにかく、留美が暗いとこっちまで暗くなるのよ」
何だかんだ言っても彼女も私の事は気にしてくれているらしい。
「ホントに無理っぽいなら、やめておいた方がいいけど……?」
表情の沈んだ私を悠里が心配してくれる。
彼女達まで私の気分で不快にさせるわけにはいかない。
「大丈夫、高校最後の文化祭だもんね。普通に楽しみたいし」
「よしっ、留美の調子が戻ってきた所で、それじゃね……」
私は友人に恵まれているな、と改めて思った。
悠里も千夏も可愛いので本当は他の男の子に誘われている可能性はあるだろう。
本人達は口にしないけど、彼女らなりに本当に私の事を気にしてくれているんだと思う。
私はそれから3人で文化祭を回る事にした。
田舎の高校だからと言って全体的に寂しくないし、文化祭の内容自体はそれなりに満足できる物だと思う。
むしろ、他に娯楽もない場所なのでこういうイベントは村中からいろんな人がやってきて賑やかなお祭ムードにつつまれていた。
私達も適当にお腹がすけば出店のものを食べたり、他のクラスの展示をみたりして時間を過ごしていた。
そんな中で、私は出会う。
楽しそうに笑う舞と未来に。
「……留美どうかした?」
「ん、ちょっと用事を思い出したの。ここで私はお別れ。後は2人で回ってくれる?」
「……別にいいけど。それじゃ、悠里行こう」
「うん。じゃあね、ルミ」
2人は私の様子がおかしいと思ったのだろうけど、気を利かせるようにして深くは何も言わなかった。
2人が去ったのを確認してから、私は舞と未来を見た。
2人は手を繋いで、まるで恋人同士のようにさえ見える。
これが現実、かな。
私はそう自分に言い聞かせる。
実際に目にして分かる。
やっぱり、この2人はもう恋人同士なんだなって。
私は深い深呼吸を1つしてから、彼らの方へと向かう。
もう少しで彼らが私の姿に気づくという距離で、ようやく聞こえてきた会話。
「ミクちゃん……約束だからね」
「ああ」
2人の様子はどこか真剣だったので、声をかけるタイミングを逃す。
約束って、何だろう?
まぁ、私が知ることではないんだろうけど。
ためらうようにして私は声をかける。
「……舞?未来?」
「あ……」
2人が振り向いて私の姿を見るなり、繋いでた手を見せないように離した。
「どうして……2人が?」
「あ、っと……舞が店番の休憩に入ったからさ。だったら、回るかみたいな流れで」
未来が必死に何か言い訳しようとしている。
舞の表情は特に変わった様子もなくいつもの口調で、
「私も1人じゃ寂しかったから、暇だったミクちゃんに付き合ってもらったの」
「そう。未来は暇だったんだ……」
私がそう呟くと未来はバツが悪そうにしている。
約束を破ったくせに暇なんて、言い訳も思いつくワケがないよね。
多分、私との約束なんて彼女には話していないんだろうけど。
「留美、あのさ……」
「私、もう行くね。じゃ、また後で……」
私は振り返らずに未来たちから離れることにした。
……もう何もかも嫌になってしまう。
私が向かった先は屋上だった。
文化祭のおかげで誰もここにはいない。
誰もいないのを確認してから私はベンチに座る。
「未来のバカっ!」
私は苛立ちを言葉にして空にぶつける。
どうしてあんなウソをつくの?
ダメとか言って、本当は本命と上手くいったからじゃない。
私だってその可能性がないとは思わなかったわけじゃい。
ただ考えたくなかっただけ。
「暇なら……僅かな時間だけでも私と過ごして欲しかったのに」
私は……未来と最後の文化祭を過ごしたかったのに。
ひどいよ、ひどい……。
ふと、未来は私との約束を守ってくれる事の方が少ないのを思い出す
“あの時”の約束も、今年の夏祭りの時も、今日も。
私の約束はすぐに破るくせに、舞との約束はずっと守る。
約束って守るための言葉じゃない。
それなのに……私との約束は未来にとっては守るべきものですらない。
それは凄く寂しくて悲しいことだけど、それが私の現実。
「……わかってたじゃない」
ずっと前から知っていた。
未来が舞を好きだってことは……。
なのに、どうして私は……泣いてるんだろう。
私は泣いてばかりいる気がする。
もう何も期待はしない、そう思ってるくせにすぐに彼の言動、行動1つに僅かな期待を抱いてしまう。
まだ希望があるんじゃないかって、そんな甘い言葉に踊らされている。
1番バカなのは私かもしれない。
でも、彼の事を諦められるわけがない。
それができるのなら、もうとっくにしてる。
どんなに絶望でも諦めたくない。
諦めなければ叶う夢もある。
そんな綺麗事を信じれるほど私は純粋ではない。
ただ……私は一瞬でいいから彼に好かれたい。
ほんの一瞬だけでもいい。
私の想いを受け入れて欲しかった。
……現実なんか大嫌い。
ガチャリとドアの開く音に私は身体をびくっと震わせる。
「留美……」
現れたのは未来、その表情は真剣そうな表情をしていた。
「……どうしたの?私に今さら何か用事でもあるの?」
「さっきはごめん」
「謝られても困るよ。別に未来は何も悪いことしてないじゃない。先に約束している子がいた、それが舞だっただけのことでしょ」
言葉がついきつくなってしまう。
こればかりはしょうがない。
私の真ん前に立つ未来ははっきりとした口調で、
「留美にウソついたから、ごめん。それと舞のことなんだけどさ……」
「言い訳なら何も聞きたくない。謝罪の言葉もね。私が聞きたいのはこれからの事」
「これから?」
どうせ舞との関係ははぐらかすに違いない。
彼女は悪くない、俺が誘ったんだ、みたいな。
そんな言葉が彼の口から聞きたいワケじゃなかった。
私は1つ間を置いてからその言葉を口にした。
「私とダンス踊らない?」
文化祭の最後にあるフォークダンス。
毎年、私は誰を相手にするわけもなくその風景を眺めていた。
未来の相手は決まって舞だったから。
そもそも文化祭自体をこの3年間、未来と過ごしたことがない。
色々と都合が重なって、私達が過ごせた時間はなかった。
今年が最後のチャンス、私の思い出を作りたい……そう思っていたのに。
「ごめん」
彼のその言葉に落胆する自分がいる。
わかりきってるはずの事を聞いても、まだ期待してるのね。
「……先に約束しているのは舞ね。ホント、意外な組み合わせ……でもないか」
「そうじゃない。本当にそういうんじゃなくて……、俺から誘ったんだ。だから、その約束は破れない……悪いけど」
「私との約束は平気な顔して簡単に破るのにね。この埋め合わせはするから、なんて言って未来がしてくれたことなんて1度もない。今までだってそう。遊びに行こうと誘ったのは全て私からで、デートに誘ってくれたこと1度もないじゃない」
舞は特別な存在だから、そう態度で言われるたびに私は本当に嫌になる。
「……それは……」
彼は言葉に詰まる。
舞と未来の関係を深く問い詰めると、私との関係を終わらされるかもしれないのが怖くて聞けなかった。
「……私との約束なんて紙切れ同然。初めからしてくれる気がないなら、気安く期待させないで。それとも私の事そんなに嫌いなのかな?」
こんな風に彼に言葉を投げつけるようなことは今までなかった。
そこまで許せなかったんだなって、私は初めて思う。
「舞の事が何でもないなら私と踊ってよ。私との約束を守ろうとしてくれないの?」
「それは……できない」
それでも強い態度に出る彼に私は思わず笑ってしまう。
不思議そうに私の事を見ている未来。
「……さっきからちゃんとした理由は話してくれないよね。なぜ舞ならいいの?なんて聞くまでもないか。もういいよ。よーく、未来の気持ちはわかったから。未来は……私の事嫌いなんでしょ。しつこい女は嫌われる。その意味を身をもって知ったわね」
彼は何も言わない、言えば言い訳にしか聞こえないからだろう。
「でもね、未来。覚えておいて。舞は私との約束を破ったりしないよ。絶対に……」
自分で怖いくらいの言い方でその言葉を口にする。
「未来は信じないけど、私は舞は信じてる……」
それは恋人関係を内緒にしている彼らには重い言葉。
「それじゃ……いい文化祭を過ごしてね」
私は屋上から出ていくのを未来は何も言わなかった。
閉じる扉音を合図に、私の高校最後の文化祭は終わりを告げる。
私は薄っすら瞳に溜まる涙を堪えて、屋上を後にした。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
ついに終わりの刻がきた。
未来と舞が前に進むために、犠牲にする幼馴染の気持ち……。
未来、舞、2人は留美に言葉を紡ぐ。
留美の気持ち、舞の想い。
天秤にかけられない2つの想いが今壊れていく。
【第18話:前に進むために】
……大切なモノを得るために。
犠牲にした代償はあまりにも大きくて。