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16、16 眠れない夜 ...
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眠れない夜が明けた。宗聖の言葉が葵を緊張させる。
「明日だ」――――それは今日。あんなふうに宣言されて平気でいられるわけがない。
時計はまだ5時。夏の朝は早い。
グズグズ思い悩んでもいられないし、「逃げるなよ」という宗聖の最後の言葉が、葵をしっかりと宗聖につなぎとめているような気がした。
葵は手早くシャワーを浴び、木綿のサンドレスを見につけ、日傘を持って海岸に向かった。
既に日差しの強さを感じさせる空気。アパートから1区画で商店街に入り、次の区画で海岸通りにでる。そこを横切れば昼間は海水浴客でにぎわう砂浜が続く。日曜の朝早い時間は車も少ない。砂浜には既にボランティアで清掃をする人たちがチラホラでていた。砂浜に捨てられた空き缶やペットボトル、波打ち際に溜まったプラスチックや様々なゴミが朝のうちにどんどん排除されていく。
葵は海岸沿いをゆっくりと歩いていった。だんだん砂浜が広くなり、海の家が立ち並ぶ区画に入った。1件の海の家で、海に向かって並べられたベンチに人が座っているのが見えた。葵は思わず立ち止まってしまった。ベンチに座っていたのは宗聖だった。宗聖は一緒に出かけたときとは違う服装。白いシャツに、黒っぽいスーツ。
人の気配に宗聖が振り向いた。
宗聖は驚いた表情で葵を見返してくる。眠れない夜を過ごした葵と、眠らない夜を過ごした宗聖。白いサンドレスの葵と黒いスーツの宗聖。2人の対比はそのまま2人の立場を如実に表している。
宗聖は葵を手招きした。葵は素直に宗聖のところにいく。隣に座るべきかどうか迷っていると、宗聖の前に引き寄せられた。宗聖の両足の間に立たされ腰を抱き寄せられる。葵を見上げる宗聖の顔には疲労感が漂っている。
「散歩か?」
「はい。」
「早いな?」
「はい、眠れませんでした。」
「俺のせいか?」
「はい。」
葵のあまりにも素直な物言いに、宗聖は笑った。
うれしかった。こんな告白は聞こうと思ってもそうは聞けない。こうなったら、このまま葵を連れて帰るしかもうない。
「葵、このままうちに来い。」
「え?」
「俺は眠らないと全然ダメだけど、俺のせいで眠れなかったんなら、責任持って眠らせてやる。」
宗聖は携帯を取り出すとどこかに電話をした。海岸通りに戻り歩き始めると、すぐにタクシーがやってきた。さっきの電話はそれだった。
宗聖は常連らしい。ドライバーは何も聞かず高台に向かった。
着いたのは海を臨む高台の一軒家。半地下の駐車場の上に張り出されたテラスにパラソルが見える。2階建ての洋館。
1階はキッチン、ダイニング、そして広いリビング、その先にテラスが広がる。2階はたぶん改装して広くした仕切りのない部屋。階段を上がると直ぐ書斎らしいスペースがあり、白いスクリーンが天井から吊るされている。その後ろはベッドルーム。部屋の一面は海に面し、もう1面は裏庭に面しているようだ。そこが宗聖の空間といえる雰囲気を醸し出している。宗聖は葵を残しバスルームに消えた。
宗聖の空間に侵入したようで気後れがする。こんなときどうすれば良いのか、全く考えもつかないので、葵はベッドが置かれているのとは反対の窓辺によって、そこに置いてあるローソファに沈み込んだ。
浜辺で出会えたことはむしろ幸運だったかもしれない。あのまま部屋に戻っても、何も手につかなかっただろう。昨夜から騒ぎ続けている心臓がもう鎮まることなどできない状態になっている。ずっと緊張を強いられている。もう葵には何もできない。ただ宗聖を信じるだけ。
海をみながら何も考えないようにしようとしている間に、葵は眠くなってきた。変なの。
一人でいるほうが安心なはずなのに、今宗聖の部屋で宗聖を待ちながら眠くなるなんて。
葵はそんなことがおかしくてフッと微笑んだ。
「葵、立って。」
後ろからいきなり宗聖に声をかけられた。
葵は振り向き宗聖を見あげた。宗聖はパジャマのズボンだけをはき、タオルを首にまいたままだ。手にはそのパジャマの上を持っている。
宗聖は振り返った葵が微笑んでいることにドキッとした。
もしかして初めてじゃないか?俺に無防備に微笑んだ顔を見せるなんて。
滅茶苦茶抱きしめたくなる。だが、頭は痺れたように眠気に襲われているから、今はダメだ。
「これを着て。サンドレスがしわになる。」
宗聖は葵を立たせると、パジャマの上を渡し、ベッドに向かう。葵は手にしたパジャマをみながら、どこで着替えればいいのかわからなくて困ってしまった。とりあえずバスルームに入ってみる。脱衣スペースが広く洗面も広い。そこで着替え、サンドレスをたたむと持って出た。
宗聖は既にベッドに横たわっている。さっきまで起きていたのだから当然だ。
バスルームから出てきた葵を宗聖は呼ぶ。
「葵、ここにおいで。」
白いシーツと白いカバーが眩しい。薄いカバーをはがして宗聖は自分の隣を示す。
わずか5歩先のそこは、新たな勇気をかき集めないといけそうにもない場所だった。
さすがに戸惑っている葵が可哀想になって、宗聖はベッドから出て葵の手をとりベッドに横たえ、自分もその横に入る。宗聖は葵をしっかりと抱き寄せ、葵の体を包み込んだ。
朝日の中、日傘をさして散歩をしていた葵。化粧っ気もなくシンプルな白いサンドレスが葵の無垢なイメージを更に強調していた。明るい場所で微笑んでいるのが似合う葵。宗聖とは全くかけ離れた世界で、穏やかに大人になっていくはずだった。
出会ってから2ヶ月も経っていない。それでも葵を抱くのは自分以外は許せないし、葵を守るのが自分の役目だと確信していた。
宗聖の体は葵を求めて熱くなっていた。だが今、抱くわけにはいかない。葵が怖がらないようにゆっくりと愛してあげないと。今は葵を気遣ってやれる集中力がない。こうして葵を感じながら眠るのもいいだろう。後少しだけの辛抱だ。
宗聖は抱きしめられて緊張している葵の瞼に口付けをし、「おやすみ」と囁いた。間もなく宗聖は眠りついた。
葵はしばらく宗聖の寝息と抱き寄せられた腕から伝わる体温に緊張していたが、やがて宗聖の体に寄り添い、宗聖の寝息に誘われるように瞼を閉じた。