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7、第5話:哀しみの雨 ...
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ずっと一緒だった男の子。
幼馴染を好きになるって、特に珍しい事ではない。
一緒にいる時間が長いから、相手をよく知るからこそ恋をする。
その恋はただ長い時間過ごしてきただけの勘違いだって、よく言う人がいる。
それは違うよ。
幼馴染と恋人の間には境界線があるの。
その境界線を乗り越えるのは普通の恋愛と何も変わらない。
幼馴染だから、そんな都合のいい言い訳も存在しない。
……そして、幼馴染だからこそ関係が壊れてしまう事がもっとも辛い。
私は未来が好き、だけど、未来は私の親友の舞の事が好き。
それに気づいたのは中学生になってから。
それまでは彼が想う人は私だって信じていたし、勘違いしていた。
でも、未来が舞の事が好きだって知ったとき私は泣いた。
どうして私じゃないんだろうって。
私は彼の事をよく理解してる、何が好きか嫌いか、何でも知ってる……つもりだった。
私が未来の事で唯一知らなかったのは好きな人。
……叶わないこの恋に私は涙するしかなかった。
諦める事ができなかった。
できるはずもない。
私から未来への想いが消える事はない。
私はどうしても諦められなかった。
未来は舞を好き……、それなら舞はどうなの?
舞は未来に恋愛感情はない。
以前に舞からそう聞いた時から私にも僅かな期待をもった。
彼が舞に想いが通じないなら、私にだってチャンスはあるかもしれない。
……もちろん、舞が未来を受け入れるかもしれない。
もしも2人が恋人になったら私はどうなるの?
それが本当に怖い……。
未来は私の想いに気づいている。
それでも彼に直接好きと言えないのは返ってくる答えが分かってるから。
未来はきっと私にこういうだろう。
『お前の事は好きじゃない。俺が好きのは舞なんだ』
6月の半ば、梅雨のはじまりに私はうんざりしながら雨に濡れるグランドを教室の窓から眺めていた。
いくら梅雨だからってこう毎日雨だと気分も沈む。
でも、私の気分が沈んでいるのはもっと別の理由だった。
「おはよ、舞」
「おはよう。るーちゃんひとりって、まだミクちゃんと喧嘩してるの?」
「……うん」
そう、今私と未来は喧嘩中なんだ。
きっかけは昨日の朝起きた出来事。
その日も朝から雨が降っていた。
私はその雨の音でいつもよりも十分早い時間に目が覚めた。
「……うぅ……ん」
気だるさを感じる身体を起こしながら、顔を洗い着替えをはじめる。
鏡の前で下着姿になった私は腕に小さな傷ができているのに気づいた。
どこかでひっかけてしまったのかもしれない。
もう血も出ていないけれど、私は治療のために下着を脱いで傷の手当てをする。
鞄の中にあった救急セットを取り出して消毒と絆創膏を貼り治療終了。
他に傷がないのを確認して、鏡を見つめていると何だか悲しくなってくる。
私は自分の胸を両手で押さえる。
「未来は大きい方が好きなんだよね」
大きいというほどでもないが、貧乳でもない私の胸。
中途半端なのはどうなの……?
「おい、さっさと起き……ろ!!?」
突然、ドアが開くのと未来の声が聞こえたのは同時だった。
「え!?」
彼は私の方を見て驚いた顔をする未来。
私はとっさに身体を隠そうとするが、相手が未来だという事でやめた。
好きな人に見られて恥ずかしくないわけがない。
だけど、好きな人だからこそ自分を見て欲しいのもあった。
「何してるんだ、前ぐらい隠せ」
「別に見せてもいいよ」
「バカ、やめろって……俺、外へ出てるから」
部屋から出て行こうとするのを私は止める。
「着替えるから待ってよ。そんなに恥ずかしがらないでもいいじゃない」
「少しは恥ずかしがれ。ったく、朝からお前の着替えなんてみたくない」
私はその彼の言葉にムッとした。
「それどういう意味?私の裸は見る価値ないって事?」
「そういう意味じゃない。常識的に朝から裸で迫るやつがあるか。珍しく早く起きてると思ったらこれかよ」
「……前は私の着替え見てたじゃない」
「そうだったかな。忘れたよ、そんなの……。それよりも、いいから早く着ろ」
私はドアの外を見ている彼に苛立ちすら覚える。
着替えとか裸とか、そういうのに彼が興味をしめしてくれないことに。
だって、普通の男の子なら……興味だってあるはず。
私にそれだけの魅力がないだけ。
そう思うと不本意ながら納得はできる。
……でも、彼は私にこういう事をされるのが嫌なんだ。
舞が好きだから、全てはそれに繋がっている。
それが何だか悔しくて……私は彼に言ってしまった。
「そうだよね、未来は自分のした事も忘れるバカだもん」
「誰がバカだって?そうやって人に自分の裸見せつけようとするような痴女に言われたくないぞ。大体、スタイルもそんなによくないの自意識過剰だっての」
「……え」
胸がズキンとかそんなレベルじゃなくて貫かれるように痛い。
その言葉は聞きたくなかった。
「……うぁっ……ぅう」
気がつけば私はしゃくりあげていた。
未来と喧嘩をしたことがないわけじゃない。
だけど、こんな風に傷ついたのは今回が初めてだった。
「お、おい……留美?」
「うるさいっ!……どうせ……どうせ私は舞みたいにスタイル良くないし、胸も大きくない。でも……っ……そんな事言わなくたって……」
何だかいろんな事が重なって私を押しつぶそうとする。
私じゃダメなんだって思い知る。
……言わなくたってわかるんだから。
「……泣くなよ。俺が言いすぎたのは謝る。ごめん」
「……ぁっ……」
私は流れている涙を拭う。
今日の事だけじゃなくて、いろんな事が重なり泣くのを止められない。
未来が舞を好きだという事、私に関心をよせてくれない事。
あげたらきりがないくらいに不満がある。
私は彼を許す事ができないまま、喧嘩している状態が続いていた。
その日の放課後、私は自分の傘を教室に忘れた事に気づいて戻ると、教室には舞と未来が一緒に何かを話していた。
最近、私には見せてくれない彼の笑顔。
未来が楽しそうに笑うその姿を見せる舞に私は嫉妬すら覚える。
『どうして私じゃないの?』
それはもう何度思ったか分からない言葉。
彼に好かれたい、そう常に思って行動していることが全て裏目に出てしまう。
これまではそれでもなんとかうまい具合にやってこれた。
……この頃、うまく行かないのは私自身焦っているのかもしれない。
このまま何事もなく高校卒業なんてありえない。
絶対に未来は行動を起こすだろうし、私だってそれをただ見ているだけなんてできない。
進路のこともあった、私は地元に残ってうちの旅館を手伝うことになるだろう。
だけど、未来も舞も頭がいいので大学に進学するという話だった。
離れ離れになってしまう事、そして……2人が結ばれてしまうかもしれないという事。
私にとってその2つが私をこれまでにないくらいに焦らせている。
昨日のことだって、別に見せ付けるようなことをしたかったんじゃない。
私だって一人の女なんだって認めて欲しかった。
好きといわなくても、意識して欲しかった。
それを望んだ結果がこんな事になるなんて私はどうすればいいの?
私は足がすくみながら、未来と舞のいる教室に入った。
「……留美」
未来が私に気づいて声をかけてくるが私は何も言わずに自分の机の横に置いてある傘をとろうとする。
「おい、ちょっとは話くらいしろ」
「何よ。私の事なんてもう放っておいてよ。舞と……舞と仲良くしてればいいじゃない。私なんて……」
その先の言葉が続けられない。
こんな事言いたくない。
それなのに、私は自分を抑えられない。
「そうはいくか。お前が不機嫌だと俺まで調子が狂うんだよ。いい加減に機嫌なおせ」
彼は私に近づいて、私の腕を掴んだ。
私はその手を振り払う。
「……優しくしないで。今の未来は本気がどうかも怪しいもの。舞の前だからって、そういう見えすいた嘘はやめて」
「どういう意味だよ。嘘じゃない、俺は……」
私はそれ以上の話を聞きたくないので鞄も傘も放り捨てるようにして逃げさる。
校舎を飛び出して、外へと出てしまった私は雨に濡れながら歩いていた。
傘を取りにいったのに濡れて帰るのはバカらしい気もするけれど、心の傷よりはマシなのでそのまま無視する。
「もう……嫌だな」
私を雨が濡らしていく。
すっかりびしょ濡れになった服と髪の毛が気持ち悪かった。
「……最悪」
可愛くないよね、私って。
後悔するなら言わなきゃよかったのに。
未来は私の事を心配してくれていた。
それはわかるけれど、舞と一緒にいたことが私のプライド的に許せない。
舞には何の罪もないけれど、それでも嫉妬を覚えた私。
楽しく笑う2人、舞に笑みを見せる未来。
分かってたはずなのに……嫌だけど、こうなるのが1番いいのかもしれない。
私なんかよりも舞の方が全ての面でいいもんね。
「……私はただの幼馴染なんだから」
そう自分を卑下して納得しようとする。
……できなかった。
納得なんてできない、できるはずがない。
舞には悪いけれど、私は未来を渡せない。
好きじゃないならさっさと振って私にチャンスが欲しい。
そう自分勝手に思ってさえいる。
「……おい、バカ。ここにいたのかよ!」
小走りに走ってきた2つの人影、未来と舞が私の後ろから向かってきていた。
未来は私の鞄と傘を持っていて、それを私差し出す。
「探したんだぞ。ったく、何してるんだ。びしょ濡れじゃないか」
「私が雨に濡れても別に良いじゃない。鞄と傘はありがとう。それじゃ、さよなら」
傘を差す気にもならなかったけれど、さすがに鞄は濡らしたくなかったので傘を開く。
「……昨日の事は俺も悪かった。でもな、俺はどうしてそこまでお前が怒るのかが知りたい。何が問題何だよ、はっきり言えよ」
「……話すことなんてない」
「2人とも落ち着いて。ミクちゃんもるーちゃんもちゃんと話するべきだと思う」
舞の言葉に私は黙り込んでしまう。
それは未来も同じだった。
喧嘩のきっかけなんて些細なことで今さら気にはしない。
ただ、私は今回の事が私達の関係を明るみにしたようが気がしてしょうがなかった。
本当に大切なのは舞だって未来に言われてるのと同じだったのが許せなかった。
「裸の事は気にしてない。別にスタイルよくないし、見せ付けたかったんじゃない」
「問題はそれかよ。その、なんだ。……綺麗な肌だったし、スタイルだって悪くないぞ」
照れた様子でそんな事言われたら、私だって嬉しくなる。
たった一言、それだけで私達の間にある不穏な空気は消えた。
ごめんとかそんな言葉じゃない、ただ私は褒めて欲しかっただけ。
「……ホントに?」
「ああ。留美は綺麗だと俺は思う。あんな事言って悪かったな」
「……私もごめん。つまんない事で怒っちゃって」
どうにか仲直りした私達は一緒に帰ることにした。
「ふたりが仲直りしてくれてよかった」
舞に心配かけてしまったけど、喧嘩しても大体はこんな風に簡単に仲直りしてしまう。
それがいつもの私達だから。
舞がいて、未来がいる今の関係が私は好きだった。
それが特別な三角関係であっても……。
濡れた肌にふわっとタオルがかけられる。
「とりあえず、それでふいとけ。風邪でもひかれたら困るからな」
「ありがと」
不器用な未来の優しさに感謝しつつ、こうなった原因をちょっと恨んだり。
私達はいつも一緒にいられるから幸せだと思う。
でもね、幼馴染を超えられないのは女としては不幸せなのかな?
……いつか離れてしまう、そんな絶対的な予感が私の胸の中にはあった。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
ひぐらしの鳴き声。
本格的な夏の到来に気分も高揚する。
だが、少年達には1つの大きな問題が立ちふさがる。
その名前は“期末テスト”。
彼らは1泊2日の一夜漬け勉強会をすることになる。
【第6話:夏の前に】
補習防止プロジェクト発動。
彼らはこの夏を無事に過ごす事ができるのか!?