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29、第27話:果たされぬ約束 ...
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この3ヶ月間で私の人生は大きく変貌した。
『……私はミクちゃんが好きなんだ』
『未来は……どうなの?』
『俺も舞が……好きだ』
叶わない願い、親友の裏切り……。
未来が舞を好きで、それでも私は彼のことを好きでい続けていた。
そして……親友の死。
『どうして舞が死ななくちゃいけなかった!』
彼は私を許してはくれなかった、それでもいい。
どんな形でも私は彼の傍にいたかったから。
だけど、それも終わり、私が舞を殺したから。
舞が私を守らなかったら、きっと彼の横に立っているのは私じゃなかった。
未来は舞を選んだ、それが全て。
舞が亡くなった後も私には希望という姿に似ていた絶望しかなかった。
悲しいというよりもどうしていいのかがわからない。
だって、そうでしょ、未来は私のことを好きになってくれないんだから。
どれだけ彼のことを想っても、私に彼に愛される資格がない。
もう、本当に最後……私は彼の傍にいる事でさえ許されない。
「……ここは?」
無我夢中で私は走り続け気がつけば大嶺神社の方まで来ていた。
そうだ、誰も知らない場所、あの場所に行こう。
私の足は自然とあの私にとって嫌な記憶しかない場所を目指していた。
神社の階段をのぼり、行き着いた先は舞と未来の思い出の場所。
『ホントに綺麗な夕焼け……。すごいね、ミクちゃん』
『……この場所に連れて来たのは舞が初めてだよ』
だけど、私の足は道の途中で止まる、どうしてもあと一歩が進めない。
『留美は……また今度連れてくるから』
私にいまだに彼のあの一言を覚えている、あれはきっと本当の言葉じゃなかったと思う。
未来は私が見ていた事も知らない、舞に気をつかわせないためについた嘘の約束。
私と約束したワケでもない、彼はそんな事を言った事すら忘れているだろう。
だから、いつかを信じても無駄なのはわかってる。
それでも、最後の……本当に最後の“期待”を込めて私はここにきた。
彼が私の目の前にある場所へと連れて行ってくれる事を願いながら。
あと一歩、この近くて遠い距離を縮めてくれるのは未来じゃないとダメなんだ。
「……まだ信じてるの?」
ポツリとそんな言葉が私からもれる。
親友を殺してまで生きている意味。
私は命がけで守ってくれた舞のためにも生きなきゃいけない。
そうじゃないと彼女が報われないから。
「……好きなのに諦められるの?」
それは舞の日記に綴られていた言葉。
舞が未来を諦められなかったように、私も諦められない。
堂々巡りを続ける考えをやめて、私は空を見上げた。
青い空に白い雲、どこにでもある平凡な空。
もうすぐ春になるとはいえ、まだ3月では肌寒い。
特に私の場合は病室から逃げ出してきたためにパジャマ姿だ。
先生たちにも迷惑かけてしまった、何をしているんだろう、私は。
「子供……どうしようかな」
未来との子供の事を考えながら、私は地面に座り込んだ。
この子だけは……必ず生んであげたいと思う。
例え、未来と一緒にいられなくなったとしても。
「……キミも生まれてきたいよね?」
自分のお腹の子に私は話しかける、未来との“絆”、大事な命がここにいる。
「私はちゃんとした……お母さんになれるかな」
これからの事を考える不安になる。
「未来……私……は……」
泣きつかれたせいか、私は眠くなってきてしまう。
少しだけ身体を休めるつもりで、私はその瞳を閉じた。
それは今まで破られたどの約束の中で最も私にとって大事な約束。
『俺がお前の笑顔を守ってやるよ』
そんなドラマの見過ぎじゃないと笑ってしまうようなセリフ。
でも、私にとっては心に刻み込まれた一言、未来は私との約束は守ってくれない。
舞が絡めば彼はそちらを優先していた、それだけのこと。
でも、この約束はそれらとは違う。
なぜなら、私と未来だけしか関係しない約束だから。
彼は覚えているだろうか、あの日の約束を……。
「……失恋?」
それは高校1年生になったばかり頃。
ある日の昼休憩、私は友人の千夏と梓との3人で話をしていた。
「別に失恋したわけじゃないんだけどさ。相手に恋人がいたってだけ。まだ告白してもなかったんだから失恋というわけじゃない」
「千夏、それ負け惜しみにしか聞こえないよ」
「うっさい。留美も負けちゃえ」
千夏の頬を膨らませるのを私は笑ってみていた。
梓も苦笑気味に笑いながら、
「でも、よかったんじゃない。本気になる前に気づけて」
「うぅ……」としょげる彼女を私たちは励ましていた。
千夏は可愛いけれど、気が強い性格から男の子からは敬遠されがち。
そのわりには恋しやすい性格のために、こうして“失恋”しているのも多かった。
いや、別に彼女が悪いというわけではないけれど。
「どうせ貴方たちにはそんなの関係ないものね。ああ、こうなったら、梓の好きな飯塚君でも好きになろうかな~。この胸の痛みを味わいなさい」
「ちょっと、冗談でもそういうのはやめてよね」
梓が必死な様子でそんな千夏の暴走を止めていた。
私は未来が好きで、梓も雄輔君の事が一途に好きだったために、まだそういう経験はしていなかっただけ、私も“失恋”しちゃうかもしれない、そんな不安を抱いてはいた。
恋は実るのが当たり前だけどいい。
だけど、その反対に失恋する可能性もあるわけで。
恋って幸せと不幸が背中合わせになっているんだなって思っていたんだ。
その日の帰り道、私はその事を直接未来に話していた。
別に未来の事が好きといったわけではなく、世間一般としても意見として聞いてみた。
「例えば、未来が好きな人に振られたらどうする?」
「あんまり考えたくないなぁ。どうせならハッピーエンドになりたいし」
「エンドって……、そこで終わっちゃうの?」
私はそう言いながら彼の真横につきながら歩く。
彼の歩調は私にとって少し早い目なので置いていかれないようにする。
「……うーん、でもさ。恋愛ってそういう意味もないか?恋愛して恋人として付き合うまでが一区切りとしての関係っていうか、楽しみっていうか」
「ドラマとか漫画とかの恋愛みたいに?」
「そう。もちろん、現実の恋はそこからの続きが本番なんだけど。振られるって事はまずそこまでいけないって事だからな」
こういう恋愛系の話題には疎い未来にしては珍しくまともな会話。
私は意外に思いながらも、そんな彼の考えをもっと聞いてみたかった。
「未来が恋愛を語るなんて意外ね。そういえば、未来の恋愛観って聞いた事ない」
「そうだったか?俺は好きな相手と一緒にいるだけで、ってタイプだけどな」
「ウソ。未来はそういうキャラじゃないでしょ」
「キャラと恋愛観はまた別問題だろうに。そういうお前はどうなんだ?」
彼にそういわれて私は自分の恋愛観を考える。
好きな相手に直接恋愛観を伝えるのはすごくドキドキするんだけど。
ていうか、未来は私が好きだって気づいてないのかな。
「好きな相手には自分だけを見て欲しいな。私、けっこう独占欲強いから」
「あ、それは分かる気がする。留美は性格的にそういう感じするし」
「失礼な。でも……ホントだよ。自分だけを愛して欲しい。自分だけに笑顔を向けて欲しい。そう心の底から思っちゃう……」
未来は舞ばかり見ているから余計に私はそう思うんだ。
たまには私のほうを見てほしい。
「でないと笑えないじゃない。好きな人の前じゃいつも笑顔でいたいもん……」
「じゃ、俺がお前の笑顔を守ってやるよ」
私は「え!?」と思わずびっくりしてつまづきそうになり足を止めた。
「……って、留美はそういう系の言葉に弱いだろ」
「も、もうっ!そういう類の冗談はやめてよ」
思わず期待しちゃったじゃない。
未来がそういうこと言ってくれるわけないか。
ったく、この男はどうして無自覚でこういう事をさらりと言うかな。
多分、悪意がないだけにこういう冗談を言われるとすごい不愉快。
「……あれ?留美怒った?」
「別にー。私だって女の子ですから。そういう風に思ってもいいじゃない」
「ごめんって。そうだよな、何か留美のキャラ的にそういう乙女キャラじゃなかったからついからかいたくなってさ」
キャラっていうな、と自分のことは棚に上げて思う。
私たちは再び帰路を歩き出す。
もう、すっかりと暗くなってしまったので私たちは電灯の明かりだけを頼りに歩く。
こういう時、私はちょこんと未来の制服の端をつかむ。
未来はいつもの事だと特に何も言わない。
そのまま話を続ける辺りが私たちの幼馴染の長さを表していた。
「留美の言いたいことも分かるな。笑っていたい。つまり好きな相手の前じゃ幸せだって事だから。やっぱり、好きな子と一緒にいるなら幸せでいたいよなぁ」
未来にとってはその相手はやはり舞なのだろうか。
怖くて聞けないけれど、私はそう解釈する。
「留美もいつかそういう相手が早く見つかればいいな」
「余計なお世話。そういう未来はどうなのよ?そういう子いるの?」
「そ、そういう子って?好きな子って事か?」
彼はしばらく思考してから誤魔化すような笑顔を浮かべて、
「ま、今は恋とか実感わかないからなぁ」
ウソばっかり、私は心でそう呟く。
ま、今回はこれ以上は深く追求はしないでおこう。
「未来が恋愛なんて口にするなんてあと10年は早いわ」
「ひでぇ。ていうか、そんな歳まで恋できなきゃ異常だっての」
「もしも、未来が恋したいって思っていても相手いない時は私が相手になってあげる。もちろん、私に相手がいなければの話だけど」
自分でもすごい事言ってるのはわかってるけれど、できるだけいつもの口調でいった。
彼はきょとんとしていたが、やがて小さく笑いながら、
「そうだな。その時は腐れ縁同士仲良くやるか。お前とずっと一緒ってのも悪くないさ」
彼にとってはそれが約束だなんて思ってもいない。
でも、私にとっては“いつか”という最後の希望にもなる。
未来が私に『好き』と言ってくれる日が来る。
もしもその願いが叶うのならば私は他に何も望まないのに。
瞳をあけると、辺りはもう夕焼けの時間だった。
眠っちゃったらしくて、私は自分の状況を確かめようと辺りを見渡して……、
「おはよう、留美。可愛い寝顔して寝ていたな」
「み、未来!?どうしてここにいるのよ」
私は本当にびっくりして言葉がそれ以上続かない。
未来が私の前にいた、この約束の場所に。
彼は私のほうに手を差し出して、私は躊躇しながらも、その手をつかんで立ち上がった。
私の身体には彼の上着がかけられていた。
未来は私の冷え切った身体をぎゅっと抱きしめてくれる。
「未来……」
「探したんだぞ。お前、どこにもいないからさ。すごく探した……心配してたんだ」
「……うん。ごめんなさい」
そうだ、私は未来から逃げていたんだと思い出す。
彼には私が舞を殺したのだと、もう一緒にいられないのだと伝えないといけない。
それなのに私は先に自分の疑問から聞いていた。
「……どうしてここがわかったの?」
期待していいか、悪いか、この一言でわかる。
彼は言葉を選ぶようにしてから言った。
「お前と……いや、まぁ、直接約束したわけじゃないけどさ。ずっと前にここで、舞と話してたの聞いてたんだろ?だったら、その時に言った事を思い出したんだ」
「何を思い出したの……?」
「留美に見せたい場所があるんだよ。ついてきてくれるかな」
いつものようにぶっきらぼうな口調で、それでも含みがある意味の言葉を放つ。
……期待しない、そう思っていた私の心が揺れ動く。
「見せたい場所って?」
「すぐそこだよ。目の前のここが俺の秘密の場所だ」
そう言って彼は私の手をとり、ついに私を思い出の場所へと案内してくれた。
『留美は……また今度連れてくるから』
本当に連れてきてくれた、約束を思い出してくれた。
“私”との約束を守ってくれた。
それが嬉しくて私は思わず涙ぐむ。
「景色も最高なんだけどな。それよりも、ここから見える夕焼けが1番綺麗に見えるんだ。ほら、湖の方を見てみろよ」
未来はそう言って湖の方を指差した。
「あ……すごい……」
そう思わず言葉がこぼれるほどそれは綺麗な夕焼けだった。
目の前の湖に反射して朱色の世界が広がっている。
これが舞も見た夕焼けの景色、幻想的な世界がそこにはあった。
「景色を見て初めて美しいって思った。この村にもこんな綺麗な場所があったんだ」
溜め込んだ涙を零しながら私はその景色を眺め続けていた。
すっきりとした気分で私は彼と別れられる……。
ウソだ……別れたくない。
本当は彼と一緒にいたいのに……自分の感情を制御できない……それでも。
「未来、あのね……私は貴方に話があるんだ」
「俺もあるよ。先に留美の話から聞かせてくれるか?」
「うん……」
私は深呼吸してから、“長谷部未来”を真っ直ぐな眼差しで見つめた。
神様、私にどうか一言だけ彼に「好き」だと伝えさせてください。
結果は望まないから、悔いのないように……伝えたい。
「私は……未来が好き。本当に生まれて出会ったときからずっと大好きでした」
私はもう彼の顔が見られずにいた。
好きな人に「好き」と言う、私にとって18歳の人生で初めての告白。
そして、その告白は終わりを告げるものでもある。
私の告白に未来はどう答えてくれるのか……。
「俺も留美が好きだ。“でした”じゃなくて今この瞬間もな」
未来の優しい温もり、彼の唇が夕焼けに染まりし私の唇に重ねられていた。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
行方不明の留美を探す未来。
だが、彼女はどこにも見つからない。
彼は今は亡き少女についた“嘘”を思い出す。
それは約束ではないけれど、大切な約束。
その場所でずっと待っている少女がいた。
【第28話:約束の場所で】
どんなに辛い“過去”があっても、
“今”があるから俺たちは“幸せ”になれるんだ。