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27、第25話:消える笑顔 ...
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翌朝、俺はいつもより早い5時過ぎに起床した。
うーん、と両手を上に上げて伸びをして、すっきりと目を覚ます。
「……未来……?」
留美の声に俺はハッとベッドの方を向いた。
「る、留美!?目が覚めたか?」
「うん……あれ?」
まだうつろな瞳から、ここがどこかまでは理解できていないんだろう。
それでも、俺は彼女が目を覚ました事に胸をなでおろす。
「よかった。ちょっと待ってろ……」
俺はナースコールで看護婦さんを呼んで後の処置を任せることにした。
その頃には自分が倒れていたという事に留美も気づいたらしく、大人しくしていた。
いろんな作業している間、俺は部屋を出て外で待っていると、
「長谷部君。留美さんが起きたって聞いたけど本当?」
病室にやってきたのは神崎先生、騒ぎを聞いてきてくれたらしい。
「あ、神崎先生。ええ、今目を覚ました所です」
「そう。それはよかったわね。あれから留美さんと話はしたの?」
「……これから、です。でも、覚悟だけは決めましたから」
留美と俺達の今後の話をしなくてはいけない。
俺の気持ちも伝えてやらないとな。
「頑張ってね」
「はい。どうもお世話になりました」
先生は1度病室を覗き込んでから、宿直室の方へと戻っていた。
その後姿を見送ったあとに、俺は彼女の両親と雄介達に電話をかけておく。
彼らも心配しているだろうから。
「……わかりました。それでは、またあとで」
留美の家族もすぐにこちらに来るらしい、俺も着替えに家に帰ってくるか。
「……話すのはまだ後になりそうだな」
だが、まだ俺達には時間がある、ゆっくりと焦らずに落ち着いてからすればいい。
今は再び彼女を苦しめないようにしてやる事だけを考えよう。
彼女の両親が仕事の合間をぬってこちらに顔を出したのは朝の7時過ぎの事だった。
彼らと行き違いになるようにして、悠里と梓がやってきた。
連絡を受けていてもたってもいられなかったのだろう。
留美も彼女達が来てくれたことに笑みを見せていた。
「ミライ、私達と少し交代。1度、家に帰ってきたら?」
「そうさせてもらう。そうだな。10時くらいまで頼めるか?」
着替えやらなんやら、それくらいまでいてくれれば俺も助かる。
「ええ、未来君。私達に任せておいて。ほら、留美の好きなトリプルプリン買って来たから食べよう。あ、その前に食べれるのかな?」
「全然大丈夫。早く食べたい」
「ホント、ルミはプリン好きだよねぇ」
すっかりと元気な様子な彼女に俺は安心して、扉を閉める。
1度家に帰ってシャワーを浴び、着替えてから俺はおやっさんの店へに行った。
「おはよう、未来。今日は遅かったな」
「いろいろあってさ」
「留美嬢の事か?まぁ、とりあえず座れ」
さすがに小さな村ではもう噂になってるらしい。
俺はカウンターに座って、朝の定番メニューを注文する。
「おはよっ、未来君」
「胡桃さん、おはようございます。今日は早いですね。何か用事ですか?」
「まぁね。今日は定期的な写真撮影の日だから」
「ああ、モデルの仕事ですか。大変ですね」
悠里から聞いた話だが胡桃さんのモデル本格復帰が近いらしい。
彼女がいろいろ悩んで出した答えがそれというわけか。
前に進む、その選択肢を選べたということはある意味勇気がいるよな。
「好きでやってる事だからね。それより、留美ちゃんは大丈夫なの?……入院したって聞いたけど?」
「ええ。今のところは特に問題ないです。2、3日で退院できるそうですから」
「それはよかった。……彼女とお話はしてみた?」
皆が俺と留美との事に心配してくれているな。
感謝とそれを裏切るようなことはしたくない気持ちが強くなる。
「彼女が落ち着いたら話をしようと思っています」
「そう。まぁ、今の未来君はもう悩んでいませんって顔してるから大丈夫かな」
彼女はそう言って笑う。
ある意味の別の悩みができたんだけどな、それもとびっきり重要な悩みが。
俺が病室に戻ると、部屋の中から女の子特有の明るい話し声が聞こえる。
俺はすっかりと元気を取り戻した留美の様子に安堵しつつ、扉を開ける。
「元気そうだな」
「あ、未来。おかえりなさい」
留美は顔色もいいし、傍目にはもう元気そうに見える。
女の子の友達効果抜群だな。
「あれ?ミライ?」
部屋に入ってから悠里が俺の方を向いて疑問の声をあげる。
「ん?どうかしたのか?」
「それ何なの……?」
彼女が気になったのは俺の手に持っていたあの舞の日記だった。
「舞の日記だよ。お前たちが見たいって言ってただろう?」
昨日、彼女の日記を見たいと悠里と梓には言われていた。
だから、見せるために持ってきたのだけど、意外な反応をされてしまった。
「持ってきちゃ悪かったか?」
「ううん。ホントに持ってきてくれるとは思わなかったから」
悠里と梓は2人して顔を見合わせている。
そりゃ、まぁ……内容は俺のことばかりであんまり見せたくはないけど。
「見せてもらえるかな?」
彼女たちにしてみれば、俺がすんなりと舞の日記を見せるとは思ってなかったのか?
大丈夫、俺はもうほんの少しだけど前に進めているんだ。
この目の前にいる子のおかげでな。
俺はそんな2人の様子を見ている留美に微笑んだ。
留美と視線が交差して彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
俺は彼女の頭を撫でながら、不思議そうな彼女の瞳すらも今はいとおしく感じる。
「……なんだか私たちはお邪魔みたいねぇ。アズサ、あっちの方で読まない?」
「そうね。それじゃ、未来君。これは少しだけ借りるね」
気を利かせて彼女たちは部屋から出て行った。
ようやく俺は留美とふたりになれたので、近くの椅子に腰をかけた。
「また入院しちゃった」
「体調不良と睡眠不足。ゆっくり休めばすぐによくなるってさ」
俺は彼女の手を握りながら、そう言った。
「なんかこんな風に優しくされるのって、未来らしくないね」
彼女は俺の態度にそんな事を言う。
俺は苦笑しながら、ついにあの事を話すことにした。
「……ごめんな、留美。いろいろとお前に迷惑ばかりかけちゃってさ」
「いきなりどうしたの?」
「いろいろ……考えたんだ。俺と留美との関係。……俺たちはもうただの幼馴染なんかじゃないから、関係を変えたいって俺は思う」
俺の言葉に彼女もようやく俺の態度を察したらしい。
どこかさびしそうな瞳をしながら、
「……神崎先生から聞いたの?」
「ああ。あ、俺が無理に頼んで教えてもらったんだ。先生は悪くない」
「わかってる。別に責めることでもないから。……そっか。知られちゃったか」
彼女は自分のお腹に優しく手を当てる。
「私のお腹の中に私と未来との子供がいるの。不思議だよね……」
「いつから気づいてたんだ?」
「私も最近になって知ったから。その前から何かおかしいかなって思ってた。神崎先生も少し前から気にしてくれていたみたいで、知り合いのお医者さん紹介してくれたの。で、結果は妊娠3ヵ月だって……赤ちゃんできちゃった」
彼女はふいに瞳を潤ませる。
俺はただその手を握り続けてあげるだけ。
子供ができたという事実は本人である彼女自身にとっても大変なことだ。
簡単に“できた”からでは済まされない。
それは俺自身にとっても大きな意味を持つ。
「未来は……私との関係を変えたいって言ってくれた。それってどういう意味?」
「お前と一緒にいたいんだ。幼馴染としてじゃなくて、恋人やそれ以上の意味を含めて」
「……ありがと。でも、貴方はそれでいいの?あれだけ頑張って勉強していた大学受験はどうするの?この子がいるから、未来の将来へ影響を与えるなんて思いたくない。考えたくない。……私はね、未来。貴方の“枷(かせ)”にだけはなりたくない」
枷、そう彼女は言った。
どうしてそういう事をいうのだろう。
「何を言ってるんだよ。これからどうするつもりだ。お前一人にはさせない。こんなことになったのは俺のせいだ。俺は留美に甘え続けていた。俺は何もしてやれずに傷つけてばかりいたというのに。だから……」
「うん。未来の私を思ってくれる気持ちは嬉しい。これで『じゃ、さよなら』なんて言われたら、ショックだし。でも、どうするつもり?すぐには何もかも無理だよ。あと数日で高校卒業して、大人になるとしても私たちは現実にまだ子供だもの」
俺も何も言い返せなくなってしまう。
そう、子供ができたからといって、すぐにそれじゃ結婚しよう、子供を育てようという風にはいかない。
当たり前だがこれからの生活はどうする?
ほかにも考えることは山のようにある。
現実的に今の俺たちには育てるのは無理かもしれない。
「だからといって、私はこの子を失いたくもないの。だって、せっかくの生まれてこようとする命だもの。舞のことで私たちは命の尊さを身をもって知ってる」
命を捨てることは俺にもできない。
「俺としては今、留美と共に生きることを選びたい。俺は俺のするべきけじめをとりたいんだ。俺が無理やりしたことで、留美が傷ついて、そして今こうなってしまった以上、俺は責任をとるよ」
「……やっぱり、そういう意味だよね」
留美がふいに瞳に溜め込んだ涙をこぼす、一滴の涙が頬を伝っていく……。
「留美?おい、どうした?」
急に黙り込んでしまった留美に俺は彼女の顔色をうかがう。
ただ彼女は唇をかむようなそんな顔をしてから俺に言った。
「未来は……子供ができていなくても同じことを言ってくれたの?わかってたのに。また……期待しちゃった」
小声でそう呟いた彼女はそれっきりその話題を口にしなくなった。
俺の言葉に機嫌をそこねたのか?
何か悪いことでも言ってしまったようだ。
しばらくして悠里と梓も戻ってきたので、とりあえずそこで話は終わる。
留美もまだ入院しているし、ゆっくりと時間をかけて話した方がいいだろう。
「私たち、そろそろ帰るね」
「ああ。俺も昼飯買ってくるよ」
「うん。いってらっしゃい」
梓たちの手前か留美もぎこちないながらも笑顔を見せた。
俺はそんな笑顔に違和感を感じつつ、部屋を後にした。
「なんかルミおかしくなかった?さっきまで普通だったのに……」
部屋を出た後に悠里にそういわれた俺は何も言えずにいた。
留美が表情を曇らせたのは俺のせいだ。
だけど、俺はなぜあの子の機嫌をそこねたのか未だにわかっていなかった。
昼飯をマスターの店で食べて病院に向かう途中に俺は雄輔に出会った。
花束を持ってるところを見ると、留美の見舞いのようだったので俺は声をかける。
「よう。未来も神保さんところへ行く途中か?」
「ああ。そうだけど?」
「じゃ、一緒に行こうぜ。隆樹も呼んでるんだ」
俺は病院前にすでに待っていた隆樹と合流してから、彼女の病室に行く。
その途中で隆樹が昨日のことを謝ってきた。
「昨日は悪かったな。少し感情的になりすぎた」
「いや、俺が悪いんだから。お前の言うとおりだったしな」
この程度で俺たちの関係は崩れはしない。
むしろ彼の本音は俺にとってもプラスだった。
友達っていいよな、俺はそうしみじみと思う。
留美の病室に近づいていると、なにやら騒がしい気配がした。
「どうしたんだ?」
「わからない。何かあったのか?」
まさか留美に何か起きたのか?
俺は嫌な予感を抱き、彼女の病室に向かう。
そこでは神崎先生や他の先生、看護婦たちが慌ただしそうにしていた。
「どうしたんですか、神崎先生」
「長谷部君。留美さん知らない?彼女、いなくなっちゃったのよ」
留美の笑顔が消えた時から気づけばよかった。
俺の一言が彼女を再び傷つけてしまっていた事に。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
舞と交わした言葉。
未来の言葉、留美の心の傷。
心の傷痕がついに留美にあの日を思い出させる。
舞が死んだあの日の出来事。
少女達を襲った悪夢の真実とは?。
【第26話:少女の傷痕】
あの日の真実。
取り返せない過去がそこにはあった。