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22、第20話:舞の日記《前編》 ...
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私には事故前後の記憶がない。
最期に覚えているのは未来と舞の裏切りの瞬間。
「……信じてくれないかもしれない。だが、俺だって……」
「もう何も言わないでいいよ、未来。もう2度と私に期待させないで。これ以上、失望するのだけはもうホントにうんざりなの」
私と彼らの関係はあっけなく終わりを告げた。
舞は私との約束より自分の幸せを選んだ。
私にしてみれば、最後の希望が崩れたことにより自棄になっていた。
そんな彼女から電話がかかってきたのが、私が学校から帰り家についた頃だった。
「……今さらじゃない」
もちろん、最初は電話に出るきなんてなかった、それなのに、私はその電話に出てしまった。
自分でもどうしてかわからない。
「何?何か用事でもあるの?」
『……るーちゃん。話があるの』
「話ならさっきしたでしょ。あれでお終い。さよなら」
『待って。今度は2人で話がしたいの。お願い……』
私は彼女からの電話になぜか疑問すら抱く。
今さら、何かを話す必要なんてあるの?
私と2人で話しても私は彼女を責めることしかできないと思う。
それをわかっていながら、あえて私と話をしたいというなんて。
「わかった……」
そこまでして話したいというならば会ってみる価値はあるだろう。
「どこに行けばいいの?」
それが私の……記憶の最後、そこから私の記憶が途切れている。
次に目が覚めた時は病室のベッドの上で、結局、舞と何があったのか覚えていない。
私の担当の神崎先生が言うには強いショックのせいで一時的に忘れているだけだと言っていたけれど、私は思い出したくないとも思う。
思い出せばきっと辛い記憶を思い出してしまう、そんな気がするから。
それに私が思い出したところで未来を癒してあげることはできない。
未来が本当に生き残って欲しかった相手は私じゃないと思うから。
舞の死から数日後、私は一時的だけど退院することができた。
足の怪我でまだ車椅子でしか動けないし、2日に1回は病院に行かなくちゃいけない。
それでも、私はようやく前に歩める事が嬉しい。
私が家に帰ると、いつもはお仕事で忙しい両親が待ってくれていた。
久しぶりの家族団欒、お姉ちゃんもお兄ちゃんも本当に私の事を心配してくれているし、家族の温かさを私は数年ぶりに感じている。
さすがに夜になると本業の旅館の経営があるから、いつものように1人で留守番。
私は何だか心が温かくなるけれど、それでも死んでしまった舞の事を思い出すとすぐに心が冷えてくる気がする。
私だけが生き残った、その事実は、あまりにも残酷だから。
ピンポーンと呼び鈴がなったので、私は玄関の方に向かう。
車椅子から頑張ってドアを開けると、そこには空さんがいた。
舞のお姉さんで子供の頃には私達もよく遊んでもらった。
私達が高校に入ってから、大学進学のためにこの村を出て行ってしまって以来だから、数年ぶりの再会だったと思う。
「こんばんは、留美さん。身体の調子はどう?」
「ええ。なんとか……。車椅子は使いにくいですけど」
私達はしばらく他愛のない話をしていた。
空さんの事、舞の事、私の事、久しぶりにいろいろ話し終えた後、空さんは1冊のノートを私に差し出した。
「……これは?」
それはよくある日記帳の類のノートだった。
「これは舞の日記よ。これを読んであげて欲しいの」
「私にですか?」
「ええ。舞の遺品を整理していたら見つけたの。貴方から未来さんに渡してあげて欲しい。これは私達ではなく彼に持ってもらうのが舞のためだと思うから」
「わかりました」
手渡された舞の日記、あの子が日記を書いていたのは知らなかった。
「空さんは中身を読んだんですか?」
「少しだけね……」
彼女は夜空を見上げるように視線を空に向ける。
「……ごめんなさい。留美さんには辛い思いをさせてしまうかもしれないわ」
空さんがそう言うほどこの日記が意味のある物なんだと知ったのは後の事だった。
私はしばらく自室にさせてもらったお姉ちゃんの部屋で布団に入っていた。
さすがに車椅子では二階にある自分の部屋にはいけない。
「……舞の日記か」
あの子が何をこの日記に書き残していたのか、気になるといえば気になる。
枕元のライトを照らして、私はゆっくりと一ページ目をめくった。
始まりはこう書かれていた。
『偽りの恋』
恋に本当も偽りもないんじゃない?
そう思いながらも文章を読み進めていく。
『私の想いはきっと偽りで、本当に恋してるんじゃないってわかってる。それでも、私は好きになってしまった。ミクちゃんを好きになってしまった』
……この日記は舞の本音だと私は感じた。
『ごめんなさい』
空さんが私にそう言ったという事は読むのに覚悟がいるという事。
私は一種の緊張をしながら再び読み始める。
この日記は彼女の中学時代から今までの、主に未来との出来事について書かれていた。
例えば、私にとって真実を知ったあの日のこと。
『今日は私の13歳の誕生日。私はミクちゃんに秘密の場所を教えてもらった。そこは夕焼けがとても綺麗に見える場所で、2人っきりでいるだけで幻想の世界にいると思っちゃった。なんていうのは言いすぎかな?でも、本当に幸せ。また行こうって約束をした。いつの日か、またあの場所に連れて行ってね、ミクちゃん』
あの日、舞に向けられた笑顔で私は未来が舞に恋をしているのを知った。
舞はもうこの時から彼に恋をしていたんだなって思えると共に、この日記は舞の気持ちがそのまま詰め込まれている気がして、辛い気持ちになった。
私の知りたかった真実、でも、見たくないと思う気持ちもある。
中学3年生の冬のページで私は見つけた。
『今日、ミクちゃんに告白されちゃった。ドキドキして、嬉しいのに悲しい不思議な気持ち。本当は嬉しいのに、るーちゃんの事を思うと悲しい。私はるーちゃんの味方だから、どんなに彼が好きでも諦めなくちゃいけない。でも、ホントに諦められるの?』
そこには『好きなのに』と言う言葉が続いている。
「もうこの頃から2人は始まっていたんだ……」
私はそうとは知らずに舞に頼んだり、未来に“迷惑”でしかない好意を向けていた。
そう思うと、私の恋は何だったのだろう。
「……もしもこの真実を知っていても、私は未来を諦められなかったかな?」
私は天井を見上げて一息ついた。
舞のように思い続けていたかもしれないし、諦めて2人を応援する立場になっていたかもしれない。
それは“もしも”の話だけど、きっと今のようにはなってなかっただろう。
日記にはそれ以外にも彼と遊んだこと、話したことが細かく書かれている。
人の日記を見ているとその人の心の中を見ている気がする。
私は水崎舞という女の子を本当はよく知らなかったんだと改めて思う。
そして、高校に入ると私は胸が痛くなる文章が続く。
『私の18歳の誕生日はきっと忘れられない日になる。今日はミクちゃんから以前から欲しかったティーカップをプレゼントしてもらった。ホントにびっくりするくらいに、タイミングがよくて、思わず私達の心が繋がってるんじゃないのって思っちゃった。ミクちゃんは約束どおりにあの場所へ連れて行ってくれた。そして、私はついにミクちゃんとファーストキスしちゃいました。キスって本当に幸せな気持ちになれるの』
……キス、誰もが憧れる行為。
私はまだ1度も誰ともキスなんてしたことがない自分の唇に人差し指で触れた。
ドラマや映画でなら見た事はあるけれど、正直、憧れ程度のものだった。
自分には未来がしてくれない限りは相手もいないし、経験がない。
「未来としてたんだ……」
実際にこの目で見てしまっているから、別に今さら驚いてるわけじゃない。
それでも、舞の言葉で知るのとはワケが違う。
嫌な気分、私……舞に嫉妬してるんだ。
彼女はもういないというのに、湧き上がる自分の気持ち。
私って本当にひどいね。
私にとって最も衝撃的だったあの花火大会の日の日記。
『ごめんなさい』
なぜかその日はそんな言葉から始まっている。
私は読み進めていくうちに彼女と未来の真実を知ることになる。
『昨日……正確には今日は、私はミクちゃんと結ばれた。ホントに私は幸せ。ミクちゃんといられるだけで、不思議とそう思えるの。満たされてるからかな。でも、私は知ってしまった。昨日の花火大会でるーちゃんがミクちゃんに告白しようとしていた事を。るーちゃんには本当に申し訳なく思うし、謝っても許してくれないだろうけど、私は……ミクちゃんが好きなんだ。ホントに好きで……この気持ちだけは譲れないの』
私は……思わず瞳に涙が潤んでいた。
舞の強い気持ち、幸せな出来事、その覚悟。
全部を知ることで私は……自分自身の気持ちを見失う。
私が未来に恋していることが彼女を束縛していた。
これまで私は舞の裏切りを許せなかった。
でも、これだけの舞の気持ちを知った後ではそんな気持ちはもうない。
舞は未来が大好きで、私も未来が大好きだった。
同じ人を好きになってしまった、ただそれだけの事。
幸せの意味……彼女が生きているうちに話あえればよかったのに。
私達は互いに罪の意識を背負い続けて恋をしていた。
私がいなければ、2人はうまくいっていたはずなのに。
ふいに事故の傷が痛み出す。
私は足と頭、それに胸の辺りに怪我をしている。
今、1番痛むのは胸の痛み、まるで心の痛みに連動するかのように激しい痛みが私を襲う。
「……くっぁ……」
痛みが治まるまで私はただ布団の中でくるまっているしかなかった。
誰も私の傍にはいない……未来、私は未来が好きだから、彼が欲しいと思う。
でも、未来はずっと舞に恋をしていた、私には彼の心は手に入らない。
届かない、もう無理だと何度も諦めようとして、できなかった。
好きだから諦められない、その気持ちは私だけの痛み。
だけど、彼の愛する舞はもういない。
私が生きてちゃダメだった、未来が本当に望むのは私ではなく舞の方……。
それは同情でもなく、本音で今は思える。
私が死んでも、悲しんでくれる人達が泣いてしまえばそれでお終い。
でも、舞は違う、舞は皆から、未来から愛されていた。
今も未来が彼女を愛するように。
「……舞、ごめんなさいを言うのは私の方だったね」
私は舞の日記をもう1度始めから読み直した。
明日、これを未来に渡せば彼はどんな顔をするだろうか?
舞への行き場のない気持ちが湧くかもしれない。
その時は……私が……。
翌朝、目が覚めると傍で誰かの気配がした。
「うぅ……み、未来!?」
「おはよう。勝手にあがらせてもらってるぞ」
部屋では私の着替えの準備をしている未来がいた。
どうしてこんな時間から?
私がそんな顔しているのに彼はため息混じりに、
「あのなぁ。動けないお前の世話を頼まれてるんだ、忘れたのか?」
「そうだったけど。そ、そんな服の世話まで頼んでないもん。って、それ私の下着!!」
「別に気にすることじゃないだろ。今さら、お前の下着で驚かないよ」
ここはお姉ちゃんの部屋だから、着替えは全部私の部屋から持ってきたという事になる。
うぅ、下着までタンスから出されてくると何だか恥ずかしいを通り越して、哀しくなる。
「もういいからぁ。お願いだから、ちょっと外に出ていて」
「着替えの手伝いは?」
「いりません」
はいはい、と言った感じで彼は部屋から出て行こうとする。
だが、彼の足が止まり、あの舞の日記へと視線が向けられる。
思わずビクッと身体がすくむ。
彼は特に気にした様子もなくその日記に手をつける。
「これ、留美の日記か?こういうのつけてんだ?」
悪戯っぽく笑い、その中身を見ようとする彼に私は感情のない声で、
「それは私の日記じゃない。舞の日記よ」
その瞬間、未来の表情は凍りつく……。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
舞の日記を留美から渡される未来。
その中身を知り、未来はついに涙を流す。
折れた心、その中に湧いた感情。
未来はその気持ちを留美にぶつける。
留美は自分への贖罪としてその罪を受け入れた。
【第21話:舞の日記《後編》】
癒されぬ孤独。
そして、少年は少女を深く傷つける。