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11、第9話:線香花火 ...
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夏休み中でもいつものようにおやっさんの店に朝飯を食べに行く。
いつもの面々に挨拶してカウンター席に座ると今日は俺よりも早く悠里が来ていた。
「おはよ、ミライ」
「……ういっす。なんだ、今日は早いな」
「まぁね。たまには早起きしたの。そういえば、昨日は朝来なかったけど、どうしたの?」
俺がこの店に来ない日はほとんどない。
朝の始まりはここのコーヒーと俺が決めているからだ。
「ちょっと寝坊。昼まで寝てた」
というのは嘘なのだけど。
昨日の朝は……舞と一緒だったからな。
「そう。ミライって朝強いからそういうのって珍しいよね」
「まぁな」
適当に話をあわせておく。
本当のことなんて言えるわけがない。
俺はおやっさんにいつものやつを注文してスポーツ新聞を眺めている。
彼女も週刊誌を読みながらジュースを飲んでいた。
悠里は最近話題の男性俳優の密会スキャンダルの記事を見ながら、
「この俳優、けっこう好きだったのにな。ちょっと幻滅」
「大抵の芸能人なら影ぐらいあるだろう。そこに夢を求めることがそもそも間違いだ」
「私、そういうリアリストって嫌いなんだよね。夢も希望もないじゃない」
「俺もそこまで現実主義者ではないけどさ」
そんな他愛のない話で盛り上がっていると、おやっさんがモーニングセットをテーブルにおいた。
「ほらよ。しかし、お前たちの年頃は芸能人なんぞに憧れるものなのか」
「そりゃ、芸能人は私たちにとっては高嶺の花だもの。逆に憧れることしかできないじゃない。だからこそ、1つのミスが命取りになったりするんだけど」
「勝手に希望しておいて、勝手に失望される方はたまらんけどな。俺も好きなアイドルくらいはいるけど、スキャンダルあったら嫌いになるぜ」
「ホントに好きなら何があってもファンでいられるじゃん。あ~あ、私もあんな風にアイドルになりたいなぁ」
悠里だって、普通に可愛いし、アイドルとしては通用するだろう。
……ただし、この性格が問題だと思うけどな。
「……うちの胡桃もそうだったが、そんな不安定な世界に生きるよりもまともな仕事について欲しいんだがな」
「胡桃さんはモデルでしょ。綺麗だし、人気出るのわかるなぁ。そっか、胡桃さんにいろいろ話聞けばいいじゃん。でも、よくマスターは胡桃さんの芸能活動許したよね」
「アレのしたいようにさせてるだけだ。高校卒業後、どうしたいかは自分で決めないと後悔するからな。お前らも何がしたいかちゃんときめておけよ」
何がしたい、か。
確かにおやっさんの言うとおりかもしれない。
俺もちゃんと進路決めたつもりだけどさ、どうなるかなんてわからないもんな。
ただ、自分のしたいことをしたい。
それだけなんだよな。
「……ねぇ、ミライ」
しばらくしてから、のんびりしてる俺に悠里が言った。
「一昨日の花火大会の時、誰といたの?」
「へ?あ、何の話だ?俺は用事でいけなかったから知らないぞ」
まさか、あの話をされるとは……。
悠里とはいえ、舞との事がバレるわけにはいかない。
「嘘つき。私、ルミと一緒にいたんだけど、あの子がミライの姿見たって。私もチラリとだけど後姿みたから間違いない」
「さぁ、白状しなさい」と言わんばかりに悠里に詰め寄られる。
「後姿ぐらい見間違えることもあるだろう?」
「私は後姿って言ってるじゃん。ルミはちゃんと顔も見た。あの子がミライの顔を見間違えるとでも?それに、ルミとの約束してたのにいけないっていう話じゃなかったの」
俺は内心ちょっと驚いていた。
留美からは悠里から聞いた、と言っていたから。
本当は彼女本人が俺の姿を見ていたというわけか。
参ったね、こりゃ。
悠里相手に誤魔化せるかどうかわからないがやってみるか。
俺はテーブルにおいてた飲みかけのコーヒーを手に持って、
「祭り会場は人も多いしな。俺に似ている奴を見かけただけだろう」
「そうかもね。だけど、ルミはミライだって思ってる。この意味わかる?」
「……俺が留美との約束を破ってまで誰かと会ってたと思ってるわけか」
「そういう事。まぁ、誰に会ってたかもわかってるし、素直に言いなさい」
あの日、俺たちのメンバーで同じように留美との誘いを断った舞。
確実に2人の事に留美は気づいている。
……ただ昨日の様子を見る限りでは俺たちの関係そのものには気づいてないみたいだ。
「あの日、ミライはマイと会ってたんでしょ」
「……ああ」
「そっか。2人はうまくいってるんだ」
「それなりには」
俺にとって留美は世話のかかる妹のようなもの。
留美が俺に好意を抱いてるという事に気づいて以来、こういう事が起きるのもある程度は覚悟していた。
だから、彼女を傷つけてしまう事を恐れている。
「……ルミはね、そこまで弱い女の子じゃないよ。はじめは無理だと思うけれど、すぐに2人のことを認めてあげられるはず。私たちの関係はそんなにもろくないって思うし、ミライ自身がどっちつかずにしてる方が私は問題だと思うな」
悠里には俺の悩みなんかお見通しってわけか。
「弱い女の子じゃない、だから傷つけていいわけでもないだろう」
「……その決断はミライがするものだから、私たちが何かを言えるものでもないけれどね。それでも友達としては応援したいって思うから、相談してくれてもいいよ」
「ああ。また何かあったら頼む」
彼女は笑顔で頷いてくれた。
いい友人だと俺は思う。
「たまにはルミにも優しくしてあげれば?」
「それ、皆から言われるけどさ。俺ってそんなに留美に対してキツイか?俺としては優しく接してるつもりなんだけど」
「全然。傍目で見てるといつもいじめてばかりじゃない。ルミも優しくされることを望んでる。私だって……好きな人には優しくされたいもの」
「……」
舞にも以前に似たような事を言われた。
優しくしてあげて、そう言われるほどに俺は彼女を嫌うこともしてないつもりだ。
だけど、女の子としてみればまだまだというわけか。
「できるだけ善処はしてみる」
「うん、よろしい。あ、そういえば話は変わるけれど明後日、恒例の花火大会するんだってタカキが言ってた。花火はもう用意したから、7時くらいにいつもの場所に来てくれって。ちゃんとマイとルミにも伝えておいてね」
「了解。しかし、もうそんな時期なんだな」
毎年恒例となりつつある俺たちだけの花火大会。
湖のほとりで行うそれは夏の終わりを意味している。
とても楽しみで、それでいて、夏休みももう終わりなんだという物寂しさのようなものを感じる夏の風物詩だ。
2日後、夕暮れになってから俺は舞と留美を連れて湖のほとりまでやってきた。
湖を管理しているコテージの横に皆が既に集まっていた。
「これで皆集まったな。それじゃ、はじめるか」
隆樹が皆から集めた予算で買ってきた花火を渡す。
俺たちまずその量に驚く、というか大量に花火の入った“箱”がそこにはあった。
「安売りでもしていたのか?かなりの量があるんだが」
「うむ。もう夏も終わりだからな。半額やそれ以下で、花火予算で十分な量が買えた」
「とはいえ、これは多すぎだろ……。一体、いくつあるんだ?」
子供の頃にこの量を見たら喜んでいただろうが、今の俺たちは夏の終わりを実感するためだけに行ってるようなものだ。
そこまで純粋には楽しんでいなかったり。
「高校最後なんだ。子供としての終わり。そういう意味で花火を楽しむのも悪くない」
雄輔の言葉に俺たちはおのおの頷いた。
そうだよな、これが皆で集まれる最後の夏になるかもしれない。
大人になればこんな風に花火することもないだろうし。
そう思うと何だか思い出を作りたい、そんな気分になる。
「それじゃ、最後の夏休みを楽しむか」
俺たちは高校最後の夏を楽しむことにした。
花火に火をつけると色とりどりな閃光が瞬く。
パチパチと音を立てる綺麗な光を見続ける舞。
俺はそっと舞のほうに近づいて声をかける。
「舞は派手な花火はしないんだな」
「あまり大きな音と光だとびっくりしちゃうの」
「それこそ、花火の醍醐味だと思うぞ。まぁ、楽しみ方は人それぞれか」
「うん」
俺は新しい花火を手にして火をつける。
それを舞と2人で眺める、それだけでも心が和む。
「私、こういう花火の方が好き。ただ見ているよりも、楽しめるじゃない」
「俺もそうかな。打ち上げ花火は見ていて爽快な気分になれるけどな」
「ミクちゃんはああいう花火はしないの?」
彼女の指差す方向では熊のような隆樹がねずみ花火の連打にのた打ち回ってる。
「あ、あちぃい!!ちょっと容赦ないな、おい!?うわっ!?」
「あはは、もっともっと!次はコレ行ってみよう!」
悠里のイジメにあってる隆樹、同情してやるがそのまま犠牲になってくれ。
「アレは俺の担当じゃないからな」
俺達はそんな彼らの姿に笑いあった。
しばらくして留美の姿が見えなくなったのに気づき、俺は近くを探してみる。
すぐ近くのコテージの影に隠れるようにして留美が座っている。
「どうした?疲れたのか?」
「未来……」
俺の声に反応して顔をあげる留美。
その顔はどこか元気がない。
「火傷でもしたのか?」
「ううん、ちょっと疲れただけ。またすぐに参加するよ」
ただ今までとは違う彼女の態度がすごく気になる。
俺もその横に座って会話を続ける。
「なぁ、留美はさ。高校卒業したら何をするつもりなんだ?」
「私?私は……うちの旅館を手伝うと思う。兄さんと姉さんみたいにね」
彼女の兄姉も旅館を切り盛りしている従業員だ。
それがあるから、彼女にとっては同じような道を選ぶのは必然なのだろう。
「そうか。他に何かしたいとかはないのか?」
「わからない。未来や舞みたいに大学行きたいと思ってるわけでもないし、なりたい職業も特にないから。だったら、家族と一緒に旅館で働こうかなって」
月夜に照らされながらも、留美の表情は見えなかった。
本当はなりたいものでもあるのか。
そういう話は聞いた事がないが、彼女にだって夢くらいはあるだろう。
「……さぁて、そろそろ戻ろうよ。まだまだ楽しまなきゃ」
「ああ。そうだな」
皆の所へ戻ると静かにそれでいて2人だけの世界に浸ってる奴らがいた。
「綺麗な花火だけど、何だか夏が終わるって感じがして寂しいよね」
梓と雄輔の2人、相も変わらず仲を深め合ってるようだ。
ちくしょー、羨ましいぜ。
「確かにね。でも、また来年になれば夏がくる。当たり前だけど、四季は移ろゆくものだから。だからこそ、美しいって感じるものもあるんじゃないかな。僕はそう思う」
うわっ、お前のその青臭いセリフを録音して後で聞かせてやりたい。
そんな雄輔の言葉に梓も満更ではない笑みを見せている。
なんだろう、お兄さん何だか寂しくなってきた。
俺はその寂しさを紛らわせるために隆樹に向けてロケット花火を打ち込んだ。
「って、それは人に向けて打っちゃダメだろう!!ぬおぉお!?」
「いいじゃん、タカキは人じゃなくて熊なんだし」
さり気にひでぇよ、悠里。
なんて、そんな彼に向けて花火を打ち込んでる俺が言える台詞ではないけどな。
その後も適当に俺たちは花火を楽しむ。
時間にして開始から1時間が経過したところでようやく花火が底をついた。
やっと終わったぜ。
「最後はこれで終わるのがお約束だろ」
隆樹は皆に線香花火を手渡す。
花火のしめと言えばこれだよな。
悠里と隆樹はどちらが長く火の玉を保てるかを競い合ってる。
雄輔と梓は先ほどと同じように2人だけの世界に突入中、戻ってこなくていいよ。
俺と舞、留美は3人で静かにその幻想的とも言える線香花火を見つめていた。
「……線香花火って地味だけど、ホントに最後を飾るにふさわしい花火だよね」
「あれだけ騒いでおいて、これだけ静かになるのも不思議な感じがするよな」
「それが線香花火の魅力。この小さな光があるから、終わったって思えるんだし」
チリリリ……と小さくて、だけど強い閃光を眺め続ける。
もうすぐ夏が終わる。
今年の夏はいろいろとあった。
舞と花火大会を見に行って、俺たちの関係も変化した。
今、こうしてここにいる皆と花火をしてるのもいい思い出だ。
時は必ず経ち、経過したものは全て思い出になる。
今この瞬間の出来事が思い出になっていく。
「また来年もこのメンバーで集まろうな」
俺がそう言うと皆は声を揃えて肯定した。
これからも親友たちとの思い出はどんどん積み重ねられていく、そう信じて。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
あの日見た光景。
舞と未来、その2人の関係を怪しむ留美。
花火大会の夜、偶然目にしてしまった光景に驚く彼女。
なぜ?どうして?
その言葉を自然に口にしてしまう留美の心情とは?
【第10話:砕ける希望】
信じていたモノが音をたてて崩れていく。
それでも私は僅かな希望にすがるしかない。